京大芦生原生林(櫃倉谷〜上谷〜傘峠)

■京都北山■2009年6月7日〜8日■テント泊
■行程[行動時間]
1日目 須後〜(櫃倉谷)〜杉尾坂〜(上谷)〜長治谷作業所テント場[6時間]
2日目 長治谷作業所テント場〜八宙山〜傘峠〜ブナノ木峠〜(内杉谷林道)〜須後[7時間]
■メンバー:トモさん、キュウさん(報告者)

梅雨入り間近。芦生はやっぱり雨だった。

昨年6月もアカショウビン(赤翡翠)を求めてここ芦生にやって来たのだが、飛んでいる姿を一瞬確認するにとどまった。木にとまっているところをじっくり見てみたいものだ。それにしても、天気予報に反して早朝から雨はやむ気配がない。芦生に来ると、いつも雨が降っている。雨の日でも、アカショウビンは活発に行動するものなのだろうか。
京大芦生原生林(2008/5/31〜6/1)

ヤマボウシ

ヤマボウシ。他にもウツギやハクウンボク、エゴノキいろんな木が花盛り。


6月7日(日)1日目 アカショウビンに出会えるのか?

午前10時。こんな天気でも、須後の駐車場には登山者の車が20台ほど停められている。雨具を着込んでいると、内杉谷の上のほうからアカショウビンの鳴き声がするではないか。「ええ、こんなところでもう聞けちゃうの?」。嬉しいけど、ちょっと拍子抜け。すぐに歩き始めて鳴き声のしたあたりに着いたが、もういない。団体さんを乗せたバスか、付近を散策していた家族連れに驚いて、どこかに行ってしまったのだろう。

歩きはじめて約1時間。櫃倉林道終点で登山靴から長靴に履き替え、右手の櫃倉谷を徒渉する。渡ったらすぐに登りを余儀なくされるが、ちょっとだけだ。10分ほどで横山峠に達し、登った分だけ下る。

櫃倉谷と中ノツボ谷が合流する広い沖積地に下り立つ。ここはトチの巨木が何本もあり、大きな葉によって晴れの日でもうす暗いのだが、今日のような日はなおさらだ。予定していた休憩はやめ、櫃倉谷を遡る。初めてここに来た人は、間違って中ノツボ谷に行かないように注意したい。中ノツボ谷は沢装束の沢屋さんでないと、とても進めるところではないらしい。

昨年の櫃倉谷歩きでは、開始早々、長靴に穴が開いてしまったトモさん。穴が開いていては、もはや長靴の存在理由がない。あのときは幾度も浅瀬に石を並べながら飛び石伝いに歩いたから、相当な時間がかかってしまった。今回は少し丈夫なものを購入し、準備は万全。しかし残念なのは今日の天気。降り止まない。

肝心のアカショウビンは、まったく声がしない。それどころかカラ類さえいない。せいぜい、ミソサザイが思い出したように時おりさえずる程度だ。

この谷で目立つのは栃の木だ。栃と朴の木の葉っぱはよく似ていて、ぱっと見では区別しにくいが、この時期はどちらも花をつけているので一目瞭然。細かい花が房状についているのが栃、大輪の花がデンと乗っかっているのが朴。朴の花は蓮の花を連想させるのか、トモさんは宗教的な雰囲気がするという。

雨にもかかわらず、櫃倉谷はいつもと同じようにおだやかに流れている。しかしもっと強い雨だとそうもいかないだろう。右岸へ、左岸へ、何度も徒渉を繰り返し、上流に向かう僕たち。

今日は誰にも会わないかもしれないなと思っていたら、傘をさした単独行者とすれ違った。さらに、そこからほどなくして3人組に出会った。そのうちの一人は歌手兼俳優の上條恒彦によく似ていて、他の二人に、この木はどうの、この花はどうのと、丁寧にレクチャーしている。会話の内容、その風貌からして、教職に就いている人であることは間違いない。櫃倉谷にあると思っていたサルメンエビネが見当たらなかったので、この人に尋ねてみた。「数は少なくなりましたが、枕谷にあるかもしれません。谷よりも、むしろ尾根筋にあるかもしれませんね」。この原生林一帯をよく歩いている人のようだ。そしてその口調は、いかにも教授のそれそのものだった。

櫃倉谷の最上流部で右又と左又の間の急斜面を登ろうとした時、背後から、くだんの上條恒彦が声をかけてきた。「では私たちは、ここで引き返します。どうぞお気をつけて行ってらっしゃい」。

胸付八丁の斜面を我慢して登ると、ひょっこり林道に飛び出す。長靴から登山靴に履き替える。林道を西に行けばすぐに標識が見え、再び山道を登る。

杉尾坂に着いた。あとは上谷にそって下るだけだ。トロッコ道と並んで人気の高い上谷も、午後になると静か。地蔵峠からの入林が禁止されたので、テント泊でなければ、午後の遅い時間にこのあたりを散策するのはきついだろう。

野田畑湿原のどこかで「プッ、プッ、プッ」と自転車の空気入れから空気が漏れているような鳥の鳴き声がする。姿は見えない。昨年も同じ声をこの場所で聞いた。ヤマセミだと思っているが、実際どうなんだろう。モリアオガエルの卵は上谷全体を通して何度も見かける。

16時、ようやく長治谷作業所テント場に着いた。と、芝地に一匹の鳥が下り立った。双眼鏡で確認。黄色いくちばしに、黒い顔と背中、腹は白。なんと、クロツグミではないか。クロツグミがもっとも好きな鳥のひとつであるトモさんは感激。地面をちょこちょこ走りながら虫を採取する姿を、十分見させてもらった。

今夜の泊まりは我々のみ。霧のような雨だから幾分ましだが、一晩中やむことはなかった。

タニウツギ

林道のタニウツギ。


コアジサイ

林道脇にはずうっとコアジサイが。


櫃倉谷

櫃倉谷。


トチ

トチの花はもう散り始めている。


ホウ

花咲くホウの木。


ヤブデマリ

ヤブデマリ。


エゴノキ

エゴノキ。


タツナミソウ

タツナミソウの仲間だと思う。


櫃倉谷

櫃倉谷の滝。


フタリシズカ

フタリシズカ。


クロツグミ

長治谷作業所の前にいたクロツグミ。
ずうっと雨と霧の中なので今回風景写真はほとんどない。


6月8日(月)2日目 芦生の尾根歩きを楽しむ。

巨木

霧の中を歩く。


残念ながら今日も朝から小雨。と、突然アカショウビンの声。しかし一声だけで、すぐにどこかへ行ってしまった。テントを撤収し、5時に出発。

ツツドリが鳴いているなと空を見上げると、こちらに飛んできて比較的近くの木にとまってくれた。「ホッホー、ホッホー」。双眼鏡で確認すると、尾をはね上げながらさえずる様子がよくわかる。と、そこにヒヨドリが近づいてきた。そしてあろうことか、ツツドリに体当たりして攻撃をしかけてくるではないか。逃げるツツドリ。ヒヨドリの倍は大きいのに、なんとも弱っちい。図体や声の大きさと、強さは、必ずしも一致しないんだ。ツツドリはこんなにも弱いから、生活能力に劣り、託卵という姑息な手段を使わざるをえないのか。

テント場から10分歩くと中山。林道がヘアピンカーブする直前のところで沢に降りる。上谷を徒渉し、岸に上がるとすぐに傘峠への尾根道がはじまる。取り付きには道標やテープはないので注意が必要。踏み跡ははっきりしている。

八宙山あたりまではやや急な登りを我慢。昨日はずっと谷だったので、山登りはいい気分転換である。途中「ドッドッドッドッドッ」とヤマドリによる重低音のホロ打ちを聞くものの、姿は確認できず。

く八宙山を過ぎ、傘峠も過ぎたあたりだろうか、道脇にひとつ、ひとめ見たかったサルメンエビネが咲いていた。とても猿の顔には見えないが、たしかに猿の毛の色をした部分もある。上條恒彦似の先生が言っていたように、この尾根筋で、このあと何度も今が旬のサルメンエビネを目にする。

立派なブナに囲まれた、ちょっとした鞍部で休憩。一匹のゲラが頭上で盛んにわめく。オオアカゲラか、ガスっていてはっきりわからない。周囲をグルグル移動しながら鳴き続けることから、ひょっとして僕らを威嚇しているのだろうか。やはりそうだった。耳を澄ますと、ヒナの鳴き声がする。これは失敬と、この場をすみやかに離れた。

歩き始めて4時間超。ピークで道が途絶えてしまった。先に進めるのかもしれないが、踏み跡らしきものが見当たらない。どうやらブナノ木峠まで来てきまったもよう。来た道を引き返す。

やはりさきほどのピークはブナノ木峠だった。傘峠からやってきた場合、ケヤキ坂〜ブナノ木峠の道と合流するのだが、合流点を少し巻いたために、気づかなかったようだ。

合流点からケヤキ坂の林道へ一気に下り、さらに内杉谷林道を2時間ほど歩く。林道と言えども、梅雨入り前のこの時期だからこそ咲き誇る花がいろいろあって、退屈することはなかった。須後のゴール直前では、これまで大峰でしか見たことがなかったショウキランに出会えたほどだ。

ギンリョウソウ

尾根道の脇のあちこちに咲くギンリョウソウ。


サルメンエビネ

サルメンエビネ。


サルメンエビネ

サルメンエビネ。


オオバアサガラ

オオバアサガラ。


マムシグサ

マムシグサ。の仲間だと思う。


ミヤマヨメナ

庭に咲くミヤコワスレを大きくしたようなミヤマヨメナ。


ショウキラン

林道脇にショウキラン。


Kyuki Woodcut site

久木朋子の木版画